59の認定品が伝える、
伝統の味、本物の味。
上品な甘さでワインにも合う
”飴色の宝石”
島根県松江市東出雲町畑地区。
島根県出雲地方の東部、「東出雲」地域の京羅木山の中腹(標高150~200m)に広がる地区。
〝飴色の宝石〟と称される干し柿の里、畑地区は晩秋、干し柿がいっせいに吊るされ、朱色の柿すだれに彩られた別世界に変わります。東出雲のまる畑ほし柿の大きさは小ぶりの卵くらいで、感触は耳たぶほどの柔らかさ。ヘタを取り、先端に向けて割くと、スルスルと剥け、口に含むと、芳醇な甘さが広がります。内部までしっかり乾燥させるのが東出雲のまる畑ほし柿の特徴。糖度は80度前後で上品な甘さ。そのまま食べても美味しいのですが、ワインに浸す、バターやチーズに挟む、カナッペなど洋風な食べ方も楽しめます。
干し柿作りは、良質な西条柿の栽培から始まります。その過程は徹底したエコ重視が貫かれています。除草剤は一切使わず、農薬や化学肥料の使用を大幅に減らし、果樹部門で唯一島根県の「エコファーマー」の認定を受けています。1~3月の剪定、5~8月の摘らい・摘果を経て、柿が完熟する11月の収穫期を迎えると、いよいよ干し柿加工のスタートです。まず、柿を枝ごと収穫。ヘタ部分を取り、1個ずつ丁寧に皮剥きし、同じ大きさに仕分けして専用紐に10個ずつ取り付けます。これを柿小屋に吊るし、荒干し乾燥や補助乾燥、天日乾燥を繰り返します。約1カ月かけ、表面に白い果糖が出るまで干し上げられた柿は12月、検査を経て、出荷されます。
畑地区は、干し柿作りに適した地として、昔から西条柿が栽培されていました。古くは出雲国尼子氏と合戦を繰り広げた毛利軍の農民武士が、手軽な兵糧として干し柿の穂木や苗木を持ち込んだと伝えられています。一帯には樹齢500年の生樹が現存します。江戸時代には、干し柿が贈答品として盛んに出荷され、文化6年(1809年)には畑地区の石橋佐助が初めて柿小屋を作ったという記録も残されています。島根県内に残る西条柿の「優良指定母樹」は3本だけで、そのすべてが畑地区にあります。
干し柿作りが継承され続けた理由は、それに適した自然条件が備わっていたためです。周囲を山に囲まれ、標高も比較的高く、傾斜に沿って乾燥した風が吹き込み、土壌は粘土質で保水性豊か。こうした気候風土が干し柿の糖度を凝縮させ、表面に白い果糖を纏った〝飴色の宝石〟を生みだしているのです。